オピオイドは内因性・外因性を問わず、オピオイド受容体に結合して効果を示す物質の総称であり、その最も重要な効用は鎮痛作用である。Herman & Panksepp(1978)はテンジクネズミの乳児を対象に愛着行動とオピオイドの関連を調べる実験を行った。オピオイドのアゴニストであるモルヒネを投与された個体は、母親と分離されると発声の量が容量依存的に低下した。母親と分離された乳児は生存の危機に瀕しており、この発声は分離による苦痛を反映すると考えられている。この結果から、オピオイドは痛みの調節だけでなく、社会的な愛着行動の維持にも関与していることが明らかとなった。さらに著者らは、分離による苦痛に関する脳回路はオピオイドに基づく痛みネットワークの進化したものに相当することはあり得ると考察している。その後、サル(Kalin et al., 1988)、イヌ(Panksepp et al, 1978)、ラット(Carden et al., 1991)、ニワトリ(Warnick et al., 2005)などの多様な種で同様の知見が報告された。近年では、オピオイド受容体に関連した遺伝子を欠損させたマウスは、母子分離によるストレスが低減したことが報告されている(Moles et al., 2004)ことから、オピオイドは社会的痛み、少なくとも愛着行動においては非常に重要な役割を果たしていると考えられる。ヒトにおいても、オピオイドが社会的痛みに関連することが示唆されている。Zubieta et a., (2003)は女性を対象にオピオイドとネガティブ感情の関連を調べるPET実験を行っている。恋人が亡くなった場面などを想像させると、オピオイドの活動は低下していた。この知見は、ヒトにおいて社会的痛みにオピオイドが関与しており、社会的痛みと身体的痛みがその神経基盤を神経伝達物質のレベルにおいて共用していることを示唆している。
Carden SE, Barr GA, Hofer MA (1991) Differential effects of specific opioid receptor agonists on rat pup isolation calls. Brain Res Dev Brain Res 62:17–22.
Kalin NH, Shelton SE, Barksdale CM (1988) Opiate modulation of separation-induced distress in non-human primates. Brain Res 440:285–292.
Herman, B. H., & Panksepp, J. (1978). Effects of morphine and naloxone on separation distress and approach attachment: Evidence for opiate mediation of social affect. Pharmacology, Biochemistry and Behavior, 9, 213–220.
Moles A, Kieffer BL, D'Amato FR (2004) Deficit in attachment behavior in mice lacking the mu-opioid receptor gene. Science 304:1983–1986.
Panksepp J, Herman B, Conner R, Bishop P, Scott JP. (1978) The biology of social attachments: opiates alleviate separation distress. Biol Psychiatry. 13(5):607-18.
Warnick JE, McCurdy CR, Sufka KJ (2005) Opioid receptor function in social attachment in young domestic fowl. Behav Brain Res 160:277–285.
Zubieta JK, Ketter TA, Bueller JA, Xu Y, Kilbourn MR, Young EA, Koeppe RA. Regulation of human affective responses by anterior cingulate and limbic mu-opioid neurotransmission. Arch Gen Psychiatry. 2003 Nov;60(11):1145-53.
2010-02-12
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿