社会的痛みは、友人や恋人、家族、仲間のような望ましい関係性から排斥されたり、低く評価されたりしたとの知覚に対するネガティブな感情反応である(Macdonald & Leary, 2005)。ここでの排斥とは、拒絶や死別、強制分離などを含む。また低評価とは、恋人になりたいのに友人としてしかみてもらえないといったような、望ましい関係性よりも低く評価された状態を指す(Leary & Springer, 2001)。こういった低評価も、排斥の可能性を増大させる信号として働くので嫌悪として経験されることが指摘されている(Macdonald & Leary, 2005)。
これまでの研究において、非身体的な痛みは感情的痛み、精神的痛み、心理的痛みといった用語でその存在が提唱されてきている。Thornhill & Thornhill(1989)は感情的痛みは身体的痛みの相似として機能するとした理論を提案している。その中で、感情的痛みは社会的事象に注意を向けさせ、将来におけるそのような事象の回避と修正を促進させるとしている。身体的痛みも同様に、その原因に注意を向けさせ、対処を促す。つまり彼らは、身体的痛みと感情的な痛みは“機能的に”似ていることを示唆してしている。さらにこの理論では、感情的痛みの原因として遺伝的な親族や親しい友人の死、地位の喪失、異性関係における嫉妬、子供なし、レイプなどに注目しており、進化的適応を脅かす要因が強調されている。社会的痛みは社会的関係性の破壊または低下の知覚を直接の原因として引き起こされる感情反応とされる。感情的痛みと社会的痛みはほぼイコールであるが、社会的関係に限定されないため概念としては感情的痛みの方が広い。つまり、感情的痛みは社会的痛みの上位概念であり、社会的痛みを内包すると考えられる。近年の非身体的痛みに関する神経科学研究では社会的痛みと表記されることも多い。いずれにしろ、最終的な目標は非身体的痛み全般に共通したメカニズムの理解にあると考えられる。なぜなら、痛みは身体的であれ、非身体的なものであれ、その情動的要素は脳内において同様に表象されているという仮説の検証が最も重要なためである。
Macdonald G, Leary MR (2005) Why does social exclusion hurt? The relationship between social and physical pain. Psychological Bulletin 131:202-223.
Leary, M. R., & Springer, C. A. (2001). Hurt feelings: The neglected emotion. In R. Kowalski (Ed.), Aversive behaviors and interpersonal transgression (pp. 151–175). Washington, DC: American Psychological Association.
Thornhill, R., & Thornhill, N. W. (1989). The evolution of psychological pain. In R. Bell (Ed.), Sociobiology and the social sciences (pp. 73–103). Lubbock: Texas Tech University Press.
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